寮長のまなざし62 一期一会ならぬ一期一食
公開:2025/6/21更新:2025/6/21
受付前のモニターを映し出すことに成功し、朝、昼、夕方とニュースを流し始めた。じっと眺める生徒は少ないが、断片だけでも記憶に残ればと思う。
男子寮生から風呂の椅子が足らない、シャワーノズルが壊れているという話があったので、風呂イスを7つ増やし、風呂桶も7つ増やしたが、増えていることに気づいていた寮生も少なかった。深夜の見廻りで風呂へ行くと風呂おけやイスやシャワーも出しっぱなしと銭湯なら片付ける文化があるが、そんなハビタスは確立していないようで、寮が公共の場であることを理解してもらうにはまだまだ時間がかかりそうである。
高3から始めた寮生面談も残すところ中1女子寮生数名となった。まもなく期末考査なので、一旦面談は中断しているが、寮生活で困ったことや気になることはないかと訊ねると、寮の食事のことを言う寮生が特に女子で多かった。男子寮生で食事のことを言う寮生は少なかったが、男女差が大きい面でもあった。
ヒトの味覚は子どもの頃に決まるらしいので、ほとんどのヒトが家庭の味が一番美味しく、それ以上の食事にはありつけないらしい。よっぽどの高級料理なら違うのかもしれないが、日常的に食する食事は家庭の味がチャンピオンでいくつになってもこの味に落ち着くらしい。
大学時代にワンダーフォーゲルクラブに所属したことがあり、北海道の利子富士に登った時の話である。麓で、同行した岡田くんは、「利尻といえばイクラだよね~」といってイクラ丼を食べていたが、お金があるとすぐに本を買っていた私は貧乏で、イクラ丼を横目で見ながら、北海道で豚肉の生姜焼き定食を食べていた。その差は500円もなかったと思うが、その500円を出すことができなかった。イクラならぬ、いつか、リベンジを果たすと思っているが、この時以来、旅先ではそれなりのものを食べるようにしている。なぜなら、未だに二度目の利尻島には行けていないし、同じ旅先には行けないだろうし。
一日3回食事を摂ると、一年間で約1000回の食事、自分の命があと20年とすると、なんとあと2万回しか、食事を摂ることができない。たった2万回である。寿命がもっと短かければ、もっと少ないことになる。だから、食事は燃料のガソリンを詰め込んだだけ、という食事ではなく、ありがたく貴重な一回を噛みしめるようとしている。
「一期一会」ならぬ「一期一食」かな。