寮長のまなざし㉛どんな育て方をしたら

公開:2025/5/19更新:2025/5/19

夜勤やその他で睡眠不足だったので、自宅へ帰り仮眠を取ると調子が少し戻ってきた。4月からは寮の管理人室で寝泊まりをしているが、昼間仮眠を取ろう休んでいても電話の音が鳴るので、まるで断眠実験の様相である。コールの音を最小にしてもダメなので、きちんと睡眠が必要な時は自宅に帰った方がいいと最近は思い始めている。4月に館内の放送機器の修理を終えて、ましになったと聞いたが、それまでは朝の起床の案内も管理人室に最大音量で流れていたというから、以前であればとても住めたものでなかったはずだった。放送機器の修理完了が良かったのか悪かったのか。
 消灯時間の間際に寮に戻ってきたら、車がいつもより多く停まっているので何事かと思っていたら、さきほど女子寮の1階が停電し、その対応をしている最中であった。いろんなことが起こるものである。

 本日は珍しく早朝からの勤務だったため朝食をレストランで摂った。レストランを出るタイミングで高1女子寮生が「ごちそうさまでした」と料理を提供して下さっていた人に声をかけて、出ていき、感謝の挨拶がきちんとできる風景を見ることができた。彼女はなかなか私の声掛けに応えてくれない生徒だが、他ではきちんとあいさつできていることが嬉しかった。

卒業生でYくんという生徒がいた。その生徒は東大に理Ⅲに現役合格できる力があったが、どうしても物理をやりたいと理Ⅰに進み、その後進振りで医学の道に変更した大変優秀な生徒だった。最初から理Ⅲへ行ってくれれば学校としても良かったのだが、彼には伝説がある。授業中に教員が間違えて説明した時に、みんなの前で間違いを指摘せず、授業を終わってから、こっそり教員に言いに来たというものである。若い時は先生が間違えるとここぞとばかりにみんなの前で指摘したくなるものだが、Yくんは教員に恥をかかせない配慮もできる生徒だった。どんな育て方をすれば、こんな生徒に育つのか、職員室で話題になったことがある。

兄弟姉妹のいる家では生まれたときから、同じように育てたつもりでも、どうしてこんなに個性が違うのだろうというくらい、違う人に育っていく。生物学の説明では遺伝的素養が同じであっても、トリガーの強さとタイミングで伸びる能力も異なってくるとの説明だったが。

他にもどんな育て方をしたら、こんな素敵な生徒になるんだという生徒がたくさんいて、ある保護者に聞いたこともあるが、「普通に育てているだけです」と謙遜されてしまう。中室牧子さんが『学力の経済学』でも指摘しているが、日本の教育は経験則ばかりで科学的エビデンスのないことが横行し、教育の世界ももっと科学的アプローチをすべきというのも同意できる。子どもにはそれぞれの個性があるが、核となるよりよい育て方、関わり方がわかれば、親にとっても大きな福音になると思うのだが。